広島経済レポートの記事(退職時の年次有給休暇取得)

ある顧問先から「広島経済レポート2012/10/11号の記事に年次有給休暇(以下、年休)のことが記載されているが、意味がよく分からないので教えて貰いたい」という照会がありました。

その記事をFAXして貰った処、「退職願届出後、14日間について、従前どおり継続勤務を要する規定を定め、年休の取得が結果的に制約されるケースについて、違法ではないという、有力な判決がでています」と記載されていました。

どうもこの記事を読んで、その相談者は「何か特別な定めをすれば、退職時に年休を取得請求されてもそれを防ぐことができるのではないか」と考えてしまったようなのです。

早速、執筆者に有力な判決という判例の名称と年月日などを問い合わせしました。その結果、大宝タクシー事件 昭和57年1月29日大阪地裁判決であることがわかりました。

その上で裁判(事件)内容を調べてみると、タクシー会社を退職した従業員の退職金が減額支給され、その退職金の全額支給を求めて争った事件でした。そして、その減額した理由が労働協約に付随する取り決めで「退職前14日間は就労しなければならない」と定めているにも関わらず、その退職者が欠勤や年休をこの14日間に取得したため、会社は退職金を最初は不支給とし、その後に一部を支払った事件でした。確かに判決の中で年休にも言及はしていますが、この判例の主たる内容は退職金減額に際して「労働協約で就労することを義務付けることができるか否か」を争ったものであり、年休はその中の一つの要素に過ぎないことがわかりました。

この判例をこの広島経済レポートのような記事にすると、判例を読みこなすことを経験したことが無い人は、あたかも退職時の年休取得を制限できるのかと誤解してしまいます。確かに、この記事の別の段落では「本人を説得して、年休を調整するか、残日数を買い上げることも許容範囲となり、スムーズな話し合いが期待されます」と記載はされていますが、この記事構成を考えると一般の人が誤解をしても仕方ない記事の構成内容となっていると思いました。

そこで、相談者には判例と色々な解説文を見せて丁寧に説明した結果、正しく理解して頂くことができました。そして、その会社の就業規則には既に「退職時の業務引継をしなかった場合には退職金を減額する」旨の条文が定められ従業員にも周知されていることを確認しました。