コックピット経営の勧め

試算表を分析して見易くした資料(毎月は見なくても良い数字を見えないようにしたもの)を毎月届けている会社の会長から電話があり、急にお伺いすることになりました。要件を電話では言われなかったので、「何の用事かナ? また会社での愚痴を聞かされるのかナ?」と思いながらお伺いすると、会長の手元には私が毎月お届けしている試算表分析資料にラインマーカーでマークしてあるものが置いてありました。そして、会長がその資料の細部のことを色々私に尋ね始められたので、私は内心で「よかった!! 会長も私の資料を見て下さっているのだ」と喜びました。

会長は既に76歳ですが、いままでは永年の経験と他の取締役が口頭で報告することを元に諸事判断され各取締役の無責任な発言に振り回されていたので、私はコックピット経営(飛行機を操縦するパイロットのように、計器によるデータと永年の経験とを総合判断して操縦するように経営すること)を会長にお勧めすべく試算表を会長が見易いように加工し直して毎月届けていたのです。毎月の決算書や試算表は、そのままでは見なくても良い数字が多すぎて、見るべき数字を見え難くしてしまっているのです。このサービスは、私が東京の富士銀行虎ノ門支店で勤務していた頃の先輩が、数年前に独立開業して東京で「決算書・試算表の見方をレクチャーしてビジネスになっている」と聞いた頃から始めました。私も昔し社長をやっていた頃はそうでしたが、決算書や試算表を見ているつもりでも、その意味を理解していない、或は見るべきポイントを外して見ている社長さんや取締役さんが世の中には結構いるもので、意外と喜ばれます。この資料は試算表と決算書を元に作成しますが、各社の特徴を活かして会社経営に役立つように各社用に独特のものを数年かけて創り上げていきます。

さて、会長からのご質問が一通り終わってから、私は数字の見方を再度説明しながら「会長!! 可笑しいと思いませんか? 三原支店の支店長と広島支店の支店長は4月に交代してもらいましたが、三原支店は4月から直ぐに売上が半減し、広島支店は4月から直ぐに売上が約130%伸びています。普通、貴社業種の場合は取引交渉を開始してそれが実を結ぶまでに3~4カ月はかかります。そのため支店長が交代したとしても、その後最低でも2~3カ月間は前任者の事前商談の余韻がありますから、特殊要因さえなければ交代した月から直ぐに売上が激変するこというこはありません。しかし、御社では交代した月から直ちに売上が激変しいます」とお話しすると、会長も「それはそうだな!! 確かに変化が大きすぎる。何があったのかナ? これは調べさせてみる必要があるナ!!」と言われてコックピット経営に興味を示されました。

また、私が「別事業部を売上高だけで見るとA支店がダントツの売上高ですが、営業利益額と営業利益率で各店舗を比較すると、売上がA店の1/3しかないD店はA店に遜色無いことがわかります。A店は売上高は大きいが、その分非効率となっている状態です」とお話しすると、会長は「全くその通りだ!! これは見方を変えなければいけない」と言われ大変に満足されていました。

実は試算表を加工してつくる資料は、過去の会議等で会長が訓示される会話の中から「この会社で留意すべき数値は何か?」を聞き取り、試算表を見易くするだけでなく、会長が知りたいことを数値で把握できるように私が創り上げたものなのです(他社でも試算表を毎月くださる企業には資料作成して届けていますが)。会長がこんなに熱心にその資料を検討してくださると私も遣り甲斐があります。

経験と勘は大切!! しかし、激変を続ける今のビジネスでは経験と勘だけでは不十分であり、噂・憶測に流されずに事実を元にした判断(事実求是)をすることが必要です。そのために数値実績を参考にすることが必要です(だからコックピット経営が必要)。そして、その数値も短期間のものだけでなく、傾向を読み取り次の戦略の参考にすることができるように3~4年分のデータも参考にすることが必要です。こうすると変化が読み取れるようになってきます。そして一番大切なことは、①「変化に気づき」②「何故だろう?」と考えるクセをつけることです。

今回の会長との話しは損益計算書の話しだけに留めましたが、本当は貸借対照表も変化を早く読み取るために検討することが必要です。こうやって、少しずつでも数字の意味することを理解するように努め、売上と利益以外の数字も見る習慣を身につけていくと、もっと合理的でムダ・ムラ・ムリの少ない事実に基づいた経営ができるようになります。