先週の新聞に「審議会が広島労働局に平成25年10月下旬以降の広島県最低賃金を733円(現行比14円UP)の答申をした」と掲載されていました。
生活保護費と最低賃金との逆転現象を解消しようとする意図はわかりますが、こんなに最低賃金を上げて企業経営は大丈夫なのだろうか? と疑問に思います。残業をさせると時給917円以上、残業が深夜にまで及ぶと時給1,100円以上を支払うことが必要となります。また更に、賃金を引き上げると社会保険料の会社負担分も自動的に引き上がる結果、会社負担の人件費は更に増えてしまいます。
大企業や中堅企業では既に最低賃金を上回る賃金を支払っていますから、最低賃金が引き上げられても企業経営に甚大な影響を及ぼすことは稀です。しかし、最低賃金が特に問題となるのは景気低迷の影響をまともに受けている中小・零細企業です。そして中小・零細企業は親会社・販売先企業からの注文に振り回される傾向が顕著にあるので、どうしても残業や深夜業が増える傾向にあります。
また、今回の広島県最低賃金引上幅は1.947%ですから、アベノミクスがいう様に「物価を2%引き上げることで景気を良くし、住みやすい日本にしよう」等としても、賃金以上に物価が上がるので労働者の実質賃金は減少してしまいます。従って、アベノミクスのいう様にするためには賃金を2%以上引き上げなければ実質賃金は増えないため住みやすい日本とはなり得ないと考えます。また今回の広島県最低賃金と同率で賃金を増やすと仮定すると、一般的な企業(メーカーや建設業他の労災保険料率・雇用保険料率の高い業種を除く)では人件費(概算)が2.2483%増えてしまいますから、アベノミクスの言う2%程度の価格転嫁では不足します。
しかし、長引く景気低迷で(受注・販売)価格が低迷し、企業は諸経費を限界値にまで引き下げていますから最低賃金が引き上げられることにより必要となる人件費増をどこから捻出するかを真剣に考えることが必要です。
素人考えでは「企業の儲けを減せば良い」と考えるかもしませんが、「企業の儲け」は会社が「将来のために投資する原資」でもありますから、「今の賃金支払原資」を増やすために迂闊に「将来のための投資原資」を減じる訳にはいきません。これではタコが自分の足を食べる状態となってしまいます。いまどき特殊な個人事業主を除いて「儲け」が個人の泡銭となっているケースは稀です。寧ろ、中小・零細企業の事業主は自らの生活を切り詰めて従業員の賃金原資をなんとか確保している企業の方が多いと経験上思います。
そうすると「1時間当たりの労働生産性」を高くして企業全体の生産性を高くするしか方法はありません。しかし、ここで考えなければならないのが「精神疾患(うつ病等)に罹患する従業員が急増している」という現実です。人間が脆弱になりつつあることは認めますが、これは企業間競争が激化して仕事密度が濃くなり、それについていけない人達が増えているということを表しているのではないでしょうか? この現象に対する企業としての対策や予防策を講ずる必要があることは間違いありません。
片や、高齢者人口が増え、女性労働力の活用を図るためにワーク・シェアリングが検討されつつありますが、労働契約法が「有期契約者も5年を超えると無期契約者となる」と改正されてしまいました。これではワーク・シェアリングを推し進める際の足枷となってしまいます。
このような現状をいかに打破していくか? 小手先の改革・改善では既に対応できなくなっています。大企業や中堅企業は労働市場の法的条件が厳しい日本から海外に業務シフトを図ることが可能ですが、サービス業や中小・零細企業ではそれが難しい現状にあります.
そこで、過去の業種・業界の慣習・やり方に拘ることなく、自社の事業を全社的かつ戦略的に顧客に焦点をあてて見直し、経営革新を推し進めることが必要なときとなっていると私は考えます。こうすることで中小零細企業は「ナンバーワン」ではなく「オンリーワン」の企業に脱皮していかざるを得ない状況にあるのでは無いでしょうか?
そのため、村上社会保険労務士事務所では「労務管理」の相談に対応しながら、中小企業庁認定経営革新等支援機関として「企業の経営革新」のお手伝いもさせて頂いています。
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