懲戒解雇する際には、その根拠が就業規則にあることを確認することが必要です。そして同時に①解雇予告手当と②助成金への影響も考えておくことが大切です。また業務上横領などのときには刑事事件として告訴するか、告訴はしないが横領額返金を請求し懲戒解雇処分とするかを決める必要があります。しかし、事件直後は会社側もどうしても感情的になっていますから冷静な判断をするのが難しい精神状態となっています。
先日、従業員が約440万円を業務上横領していたことが発覚した会社から相談がありました。当然のこととして経営者は「即日解雇だ!! 横領したお金は即刻一括弁済させる!!」と憤っている状態での私への相談でした。そこで私は、
①労基署の解雇予告除外認定に関して
労基署としては、労基法で定められた「解雇予告手当の支払い義務を免除する」という法律大原則の例外を認めるわけだから軽々に除外認定をする訳にはいかない。しかし、解雇予告除外認定の申請が提出されたら、仮に添付資料は無くても一端は受理をする。その後に労基署が独自の調査を行い、事実確認のうえで決定する(一般的には決定までに2~3週間必要)。ただし、労基署が本人に事実確認する際に本人が事実を否認すると決定までに時間がかかることがある。そして解雇予告除外認定を申請する場合には下記の資料を添付して貰いたい(添付資料が無くても労基署は受け付けるが、調査の段階でいずれは必要となり会社に提出するよう要請することになる)。
(a)労働者名簿
(b)労働条件通知書
(c)賃金台帳・・・事件発生から現在までのもの
(d)タイムカード・・・同上
(e)各日にそれぞれ幾らの被害額があったかが分かるようにした資料(本人が否認した場合に労基署が詰問するための資料)
尚、解雇手当除外認定が否認された場合には解雇予告手当は支払わなければならない。
②ハローワークの助成金と解雇の関係に関して
基本的に、本人に重大な責任がある為に懲戒解雇した場合(重責解雇)は、助成金には影響を与えない。しかし、「本人に責任がある」ことを立証するための資料として、労基署の解雇予告手当除外認定書が資格喪失届提出の際に添付されている方が望ましい。解雇予告除外認定が無い(申請しなかったり、申請してもまだ認定されていない)場合には、ハローワークに下記の書類を添付資料として提出するとハローワークが事実調査をしたうえで結論を出す。
(a)本人が解雇事由を認める本人の同意書
(b)会社が懲戒解雇する根拠となる会社の就業規則
(c)懲罰委員会の議事録
しかし、(a)本人が解雇事由を認める本人の同意書が添付されていたとしても、ハローワークが行う調査で本人が犯行事実を否認すると普通解雇になり助成金は利用できなくなる可能性がある。
③本人が労基署やハローワークに対して犯行事実を否認した場合には、民事事件として会社と本人が裁判で争うことになる(告訴しないのであれば刑事事件にはならない)。
以上を前提として、ご相談のあった会社から把握している業務上横領の事実を教えてもらいました。被害額は約440万円。手口は、飲食店で顧客が注文したオーダーシートを会計で清算する際に、オーダーシートの一部をレジ打ちせずに客からは全額を貰い、その差額を約3年間に渡り抜き続けたということでした。他の従業員からチクリがあったので発覚したそうです。
会社としては「刑事事件にするつもりは無いが、即日懲戒解雇し、抜き取ったお金を全額即金で返済して貰いたい」ということでした。当然のこととして、「解雇予告手当を払う意思はないし、助成金を利用する際に弊害がでないようにしたい」という会社の意思でした。
また、約440万円を抜き取った事実を本人は認め、書面(現認書)にして会社に提出していることも分かりました。その上で、会社は事実調査のため、本人に自宅待機命令を出しているということでした。
会社には、①本人が現認書を会社に提出していたとしても、後日それを本人が全面否認する場合も多く、②また今回のようなケースの場合、誰がレジのお金を抜き取っていたかを特定し証明することは極めて難しいこと等を会社にお話しして、結論として「腹の中が煮えくり返る気持ちはわかるが、会社にとって一番良い方法は、①分割返済も視野に入れながら返金を確約させること(分割返済の場合は連帯保証人を取ること)、②懲戒解雇ではなく諭旨解雇にして本人から辞表を提出させ、合意書(和解書)を締結することです」とお答えしました。
数年前のことですが、やはり業務上横領の相談がありました。そのときは、建設業の従業員(部長)が下請企業から個人的にバックマージンをとっていました。このとき相手も馬鹿ではないので事実を隠ぺいしており、事実調査するのに約3カ月間もかかってしまいました(何故かはわかりませんが、事実調査を私にはさせずに常務一人でやっていました)。そして常務の事実調査が終わり、被害額が約1,500万円であることが確定してから、顧問弁護士の所に行きました。そうすると顧問弁護士は有無を言わせずに会社と本人とを和解させ訴訟事件とすることを避けました。当時、私は弁護士の強行姿勢を理解できませんでしたが、その後に色々な労働紛争や裁判を体験した今では、弁護士の当時の言動が正しかった(裁判で争うことが如何に無駄なことであるか)ことを理解しました。
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