今月初め頃に、ある会社の社長から「会社を辞めることになっている従業員が他の従業員にも他社に一緒に移籍するよう声をかけているので困っている。何か良い方法はないか?」と尋ねられました。そのとき私は、「効果的な対策は特にありませんが、勤務時間後であれば兎も角として勤務時間中にそのような行為をしていると就業規則を元に懲戒処分することができます。一番効果的なのは退職日まで休業を命じることですが、業務上の都合があるでしょうから、取り敢えずは厳重に注意したうえで守秘義務誓約書を提出させることが防止の第一歩となるでしょう」とお答えし、在職中の守秘義務誓約書の雛形をメールしておきました。
その後、社長は何も言わなくなっていたのですが、一昨日にある支店の責任者と従業員1名の離職手続きを依頼され、私は直ちにその事務処理を行いました。そうした処、同じ支店の別人が同じ日に辞めることになったので、再度手続きをして貰いたいという依頼が今日ありました。この支店は全部で7名程度しかいない支店ですから、そのうちの3人が同じ日に辞めるというのは大変なことです。そこで私は社長に電話して「ヒョッとして先日言っていた件は、この支店のことですか?」と確認した処、社長からは「そうです」という返事でした。
そこで私は「退職後の守秘義務を定めた誓約書を再度貰っておいた方が良いと思いますので、メールで送信しておきます」とアドバイスしました。
退職時の守秘義務誓約書では①営業機密や従業員の個人情報などを退職後に漏洩しないこと、②一定範囲内の競合他社に入社する場合は当社に事前に連絡すること等が記載されています。この誓約書には法的拘束力は余りないのですが、誓約書を提出させることで心理的にプレッシャーを与えることができます。
退職後に関して、本人が既に習得している前職での技能・人脈等を他社で流用することは防げないことです。また余程の馬鹿でない限り会社の機密情報(顧客台帳ほか)をフラッシュメモリーやスマホで社外に流出させたとしても跡を残さないようにしますから、訴訟に持ち込んでも勝てる可能性はほとんどありません。最終的には本人の自覚に頼るしかないのが現状です。そして本人の自覚に頼らざるを得ない現状であるからこそ、心理的プレッシャーを与え得る誓約書を退職時に改めて提出させることには意味があると経験上思います。
尚、退職の一定期間は一定地域内で競合他社に入社することを禁止する場合には、過去の判例からすると退職金を上積みするなどの措置をすることで、本人の蒙る不利益を補償しておくことが必要となります。
企業間競争が激化していますから、機密情報を抜き取ろうとして他社が従業員に転職を勧めてくることが増えています。憲法で職業選択の自由が保障されていますから、この行為を止めさせることは難しく頭の痛くなる問題です。
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