脳・心臓疾患と長時間労働

仕事中に気分が悪くなり、帰宅して安静にしていた処、更に症状が悪化したようなので通院し、脳梗塞と診断された人がいます。ご家族の人から「仕事中に発症しているから労災ではないですか?」と問い合わせがあったので、色々と調べてみました。

このような場合の労災判定基準は明文化されており、

①発症前に一生で一度あるか無いか位の異常な出来事が本人に無かったか?

②おおむね発症前1ヵ月間の短期間に過重労働が無かったか?

③発症直前の月に100時間超の法定時間外労働、または発症前2~6ヵ月間に月平均80時間超の法定時間外労働が無かったか(長期間の過重労働による疲労の蓄積)?

が検討され、そのいずれかがあった場合は、仕事との因果関係が認められ労災として扱われることになります。

このとき注意しなければならないことは、法定時間外労働は実際に働いた時間数から単純に各週40時間を引いた時間数であるということです。所定休日労働、法定休日労働、深夜労働、あるいは週44時間制の特例業種等は一切関係なく、単純に実労働時間数から40時間を引いた時間数です。また、勤務する勤務形態(不規則な勤務、拘束時間の長さ、深夜勤務、交代制勤務など)が劣悪、働く環境が劣悪、精神的緊張が著しい職務内容と判断される場合には、それらの点も考慮されることがありますが、大前提としては前記の時間に関する条件をクリアーしていなければ労災として認定されないということです。また更に、過去に私傷病として脳や心臓に関する同様の疾病に罹患したことのある人の場合は、仕事との因果関係よりも過去の疾病(基礎疾患)との因果関係が生じている場合が多いため労災認定基準が厳しくなるそうです。

明文化される前は、法定時間外労働時間数が120~130時間などと言われていましたので、時間に関する基準は若干低くなったものの勤務条件など時間以外の要素は余り考慮されなくなったようです。

さて、ご相談頂いた人の場合ですが、前記①と②は無かったと言われるので③の可能性を調べることにし、まず会社に過去1年間のタイムカードを開示してくれるように依頼しました。そうした処、会社も協力的で直ちにタイムカードを閲覧させてくれました。その結果、この人は日勤と夜勤が不規則に行われているものの週40時間を超える勤務が月平均で40時間~60時間程度しか無いことが分かりました。その為、その旨をご家族に説明し、労災ではなく健康保険の傷病手当金を申請することになりました。

上記説明は少々言葉足らずの点がありますから、詳しくは労基署にご確認ください。