人事評価と目標管理

日本版同一労働同一賃金の問題が取り沙汰されるようになって、役割(≒職務)分担の明確化と同時に人事評価が非常に重要な要素となっています。その為、色々な会社で人事評価制度の再構築をお手伝いさせて頂いていますが、いつも思うことがあります。

人事評価制度を再検討している際に、会社の人はどうしても従業員を評価し優劣順位をつけることに重きを置いていらっしゃる場合が多いようです。ご相談して頂いた企業の中には会社への貢献度を評価するのではなく人物評価をしていたケースも散見します(私が人事評価制度や賃金テーブルを学び始めた約40年前の人事評価は人物評価でも良しとされていましたが・・・)。

私が評価に関して助言する場合は、

① 採用面接の評価:能力は入社後に教育することで向上させることが出来ますから、人物・人柄(会社の方向性(≒方針)に従い、真面目にコツコツと継続するか否か)を重点に評価してください。

② 賞与の評価:一定期間の会社への貢献度合いとそのプロセスとを重点評価してください。

③ 昇給の評価:②の評価を参考にしながら、本人の成長度合いと将来への期待度を考慮して評価してください。

④ 昇進の評価:③の評価を参考にしながら、新しい社内ポジションの空席状況とそのポジションで本人が果たすべき役割に対する本人の能力を元に評価してください。

⑤ 教育訓練の評価:教育訓練の報告書だけでなく、教育訓練後に本人が発揮した能力・実績とプロセスを元に評価してください。

などの助言を行っています。要するに、評価する目的によって、評価する際に重点的に検討する項目が異なってくるということです。

そして、人事評価制度の再検討を行っていくと目標管理を行わざるを得なくなることが多いのですが、その場合に目標管理をノルマ管理と勘違いされているケースが非常に多いと感じます。故 P.F.ドラッカー翁が唱えた目標管理とノルマ管理とは異質のものなのです。評価者(評価した人)が日常業務に翻弄されている為に評価して終わってしまい、結果を踏まえて本人に今後どのようにして貰いたいかを伝えることが疎かになっているケースが多見されます。その為、被評価者(評価された従業員)は賞与や賃金が増えたか減ったか? 昇格できたか否か?だけを注視して、自らの技能を向上させることが疎かになっている場合が多いようです。

そこで、私がいつも力説するのは「人事評価の目的は従業員の優劣順位をつけることではありません。人事評価の目的は会社への貢献度を評価し、その従業員を会社が意図する方向へ育成(ベクトル合わせ)することなのです」「目標管理はノルマ管理とは違います。目標を設定する際は会社が進もうとしている方向性を従業員に伝え、その方向性の中で従業員個人として"何を""いつまでに""どの程度"実行するのか又はして貰いたいのかを従業員とよく話し合いをし、途中経過の状況も話し合い確認し合い、結果を踏まえて今後どうするのかを話し合うことが大切なのです。そしてその過程を通じて従業員を育成していき、よりよい会社になっていくのです。昔から"企業は人なり"といわれています」ということです。

その為、人事評価の項目も、最初は私からタタキ台を提供しますが、それを参考にしてその会社に合うようにカスタマイズする作業を会社の人と協働していきます。ただし、タタキ台を提供する前に、何度も試問してその会社の特徴や考え方を把握していきます。そして、タタキ台を提供した後は、重点評価項目をどうするかについての検討に時間を費やし、当然のコトですが会社の人は評価する人達(評価者)にも評価項目をどうするかを相談して頂きます。そして試行(テスト的な評価練習)を何度も繰り返して評価項目をより一層その会社に合うように仕上げていき、会社独自で運用できるようにしていきます。

そして更に、評価の結果を昇給や賞与にどのように反映させるかについて十分な検討時間を設けます。

しかし、人事評価制度は難しいモノを創ると失敗します。また、借りてきた猫のように"ひな型"を導入するだけでは上手く運用できず、また長続きもしません。その為、出来る限り分かり易くシンプルで、その会社に合うモノに仕上げるようにしています。