労働時間数の集計

 労基法と安衛法により、賃金台帳に1か月間の労働時間数(勤務時間数)を集計して記録管理しなければなりません。その為には、1か月間の労働時間数が正しく集計されていることが必要です。

 昔しからよく見かけていたのですが、タイムレコーダー等を利用して始業終業の時刻は記録しているがそれは給与計算の為だけであり、労働時間数の管理はしていないケースがあります。これは勤怠管理システムを導入しても同じことが言えます。大切なことは、人間の眼で労働時間数を確認し、通常との違いに気づいたときに、現場に行って速やかに対策を講じることではないでしょうか?

 そして、これも昔からよく見かけていたのですが、タイムレコーダーを使用されている会社でその初期設定をする際に1日の労働時間数を30分刻みに設定している為、30分未満は00分に、30分以上は30分として集計されるため1か月間の労働時間数が正しく集計されず法違反(全て切り捨て処理)となっていました。

 働き方改革が推進されるようになってから勤怠管理システムを導入された企業でも勤怠システムの初期設定がその会社の就業実態に合っていない為、日々の労働時間の切り捨て等を行っているケースをよく見かけます。

 しかし、昭和63年3月14日基発150で「1か月間の労働時間を集計して、その集計値に30分未満の端数がある場合は切り捨てし、30分以上の端数がある場合は1時間の切り上げる」ことは認められていますが、「毎日の労働時間数の端数処理すること」は認められないことになっています。

 私も顧問先にはクラウド型始業・終業時刻記録システムを推奨していますが、そのシステムで利用することができる集計方法は利用せずに、関数とマクロ機能を使ったExcelで各社の実態に合わせた集計表を作成し、そのExcelにクラウドから始業終業時刻をコピーペーストし、各従業員の勤務実態を確認した上で、1か月間の労働時間数を集計するようお勧めしています。自動読み取りをさせてはダメで、一見面倒なやり方と思えるかもしれませんが一人ひとりのデータをExcelにコピーペーストすることで例外的な働き方に気づく(管理する)ことができます。

 古いお話しですが、小泉政権時代の国会答弁の「厚生労働省ではタイムレコーダーを何故に職員の勤務時間管理に使用しないのか?」という質問に対して、平成16年3月2日付国会で「タイムカードのみでは職員の正確な勤務時間が把握できないことから勤務時間管理の手法としてタイムカードの導入は必要ではないと考える」(内閣衆質158号第15号)と答弁されています。

 この答弁で述べられているように「出社時刻」と「始業時刻」、「終業時刻」と「退社時刻」は必ずしも一致するものではなく、法律が求めている労働時間数(勤務時間数)とは「始業時刻」から「終業時刻」までの「拘束時間」から「休憩時間」「中抜時間」等を差し引いた時間数です。私は大学を卒業した後の4年間を東京・虎ノ門で銀行員として働いていましたが、朝の通勤ラッシュを避けるため始業時刻の45分位前には銀行に出社し、その後は休憩室で自販機のコーヒーを飲みながら同僚と雑談をするのが常となっていました(銀行は始業終業時刻を手書きで申告させる仕組みでした)。また、社会保険労務士になってからの昔話(個別労働紛争)ですが、特定宗教の信者である工場長が始業時刻の1時間位前に出社し、若い従業員にも早朝出社を命じて布教していた(工場長は出社時にタイムカードを打刻)ケースもありました。

 従業員は人間ですから、必ずしも規則正しく働くものではなく、予期せぬ働き方(特に取引先に振り回される等)もすることもあります。その為、全てを自動化しようとするのではなく柔軟に対応できるやり方を検討すべきではないかと私は思います。

 そして、そこで得られた勤務実態をその人の仕事の成果と併せ考え、一人当たり(時間当たり)の生産性を高くすることができる働き方を模索していくことが大切だと考えています。

 なお、ここで留意した方が良いと私が考えることは「人間は忙しい時には忙しいなりに、暇なとき暇なりに仕事を進める」という点です。そのため、定型的業務には「標準(所要)時間」を想定することをお勧めしています。