働き方改革と業務改善

 原材料費や人件費が高騰する中で、働き方改革を推進する為に、会社がPCソフトや装置・機器を購入するとその経費の一部が助成される制度の利用条件が緩和されています。しかし私は「PCソフトや装置・機器を購入する」だけでは働き方改革は推進できないと考え、この助成金を利用するお手伝いするだけでなく、依頼があれば業務改善を行うためのお手伝いもさせて頂いています。

 『変革を起こせるのは人間だけであり、ハードウェア(PC、装置、自動化、新鋭設備など)ではない』(書籍:危機からの脱出Ⅰ 著者:W・エドワーズ・デミングより)と言います。

 40年位前にコンピューターが普及するにつれて、業務改善を目的にソフトを導入された会社が沢山ありました。しかし、折角導入したソフトを十分には活かしきれず、寧ろ業務の複雑化を招き経費を増加させたケースもありました。その結果、個別の業務ごとに最適なソフトを導入するのではなく、会社全体の業務を統合できるソフトが開発されるに至りました。

 そして、石油ショック、バブル崩壊やリーマンショックの後で"ものづくりメーカー"さんは生産工程における"ムダ""ムラ""ムリ"を徹底して排除することで生き延びることに成功しました。私の地元の自動車メーカーであるマツダのスカイアクティブ生産方式について研修会で学び現場を拝見したときは、昔しからマツダの構内を知っていた私は吃驚しました。

 また、生産性が低いと言われる日本のサービス業でも、私が体験したのは散髪屋さんでした。その散髪屋さん(チェーン展開され、私は労務管理に関して助言していました)は、顔の髭を剃るときに温かいタオルで顧客の顔を覆うことはせず特殊なクリームを使用して髭剃りをし、またシャンプーしてもらったときも如何にして短い時間で濡れた肌や頭髪を乾かすかということに工夫されていました。

 これらの私の体験を基に「顧客の要望(値上げ防止と品質向上)を実現するためには、モノやサービスの提供工程全体における"ムダ""ムラ""ムリ"をいま一度排除し直す必要がある」と考えています(トヨタの改善活動は「乾いた雑巾を更に絞る」と聞きます)。

 そして、その為には部分的な改善を目指すのではなく会社全体の仕事の流れ(業務フロー)を再検討する必要があると思います。そして更に、そのときに一番大切なことは「会社で暗黙知となっている過去からの習慣や考え方に拘らず、目的を達成する為の最適手段を選択する」こと(パラダイムシフトすること)だと考えます。そして、そのときにボトルネックとなるのは標準化されてない「属人的な業務」がある場合です。

 因みに、私が事業再生(倒産しそうな会社の立て直し)のお手伝いをするとき、中小零細企業では「5S(整理・整頓・清掃・躾・清潔)運動」を徹底して行って頂きます。そうすると、リストラや資産売却のような外科的手術を行わず、それだけで利益が出始めた会社が沢山ありました。この5S運動とは、単に職場や社内を綺麗にするというだけでなく、社内に潜む"ムダ""ムラ""ムリ"を徹底的に排除し、またそれを通じて人間(経営者や従業員)に考え方の違いに気づいて頂くことにその目的があります。そして、その際には部分最適ではなく全体最適の視点を育んで頂くようにしています。

 いずれにせよ、人口減少が招く人手不足や人件費の高騰が潮流(トレンド)として予測される中で、原材料費高騰や顧客ニーズなど市場の変化がある日突然に発生するカオス的な状況の昨今において、働き方改革が推進されているので、会社が存続・維持・発展を続けていくためには「会社を構成する人間の考え方をパラダイムシフトして頂き、過去の自分(自社)の成功体験に囚われず、全社的かつ中長期的視野に立ち出来る限り一貫性を保った業務改革を継続していく」しか方法は無いと私は考え、ご相談いただいた企業さまに伴走させて頂くようにしています。